郷義弘(江義弘)
享保名物帳でいう名物三作の三番目が郷義弘(江義弘)です。義弘の名は室町時代初期までの銘尽(めいづくし)や長享銘尽(ちょうきょうめいづくし)では明らかではなく、室町中期の能阿弥本銘尽、往昔抄(おうせきしょう)などでようやく「江越中松倉住 五道入道の弟子江は後に越中に住」と在住の地が表されています。
「お化け」と称されるほど寡作
相州正宗、粟田口吉光と共に「天下三作」に数えられる郷義弘(ごうのよしひろ)ですが、正真確実な在銘作が現存せず、若くして没した為に作品が少ないことから「郷とお化けはみたことがない」と称されるほど一般の目に触れることは少ないです。郷義弘は、「郷(ごう)」或いは「江(音は同じ「ごう」)」とも書き、名物になっているものは「富田江」「稲葉江」のように全て「江」の字を用いています。製作年代は、鎌倉末期から南北朝初期にかけてで、越中国松倉郷(現在の富山県魚津市)で作刀したと伝わっています。その為、義弘を「松倉郷」義弘と共に越中国を代表する刀工則重を「呉服郷」と双方の鍛刀地からとった呼称で呼ぶ場合もあります。
在銘作が現存せず、全てが極め作
相州伝の刀工は、正宗や行光、左文字など全般にわたって在銘作が少ないのですが、殊に正宗十哲を代表する刀工である義弘と貞宗には双方ともに正真確実な在銘作が一振も現存せず、その全ては極め作です。もちろん、名物も例外ではなく、刀剣乱舞でおなじみの「物吉貞宗」「太鼓鐘貞宗」「亀甲貞宗」も無銘極めの作です。その為、両工の実在を疑う刀剣研究者や愛刀家も少なくなく、刀剣書によっては両工を掲載していないものもあります。
「富田江」と「稲葉江」の二口が双璧
享保名物帳では、郷義弘の刀を十一口(焼失の部を含めると二十一口)掲載しており、特に「富田江」と「稲葉江」の二口は同作中の双璧と称されています。もし、義弘の作から刀剣乱舞に実装されるとしたら、まずこの二口のどちらかでしょう。あえてどちらかに絞るとするならば、有力なのは江戸期に「天下一」と称された「富田江(名物大典太と同じく前田家所蔵)」だと思います。(※記事公開後に篭手切江が実装されました)また義弘の作刀は、その実在を疑う声もありながら今日でも高く評価されており、前述の「富田江」と「稲葉江」が国宝に、加えて五口の作が重要文化財に指定されています。
刀 金象嵌銘天正十三十二月日江 本阿弥磨上之(花押)所持稲葉勘右衛門尉(名物 稲葉江)
国宝 刀 無銘 義弘 名物 富田江
重文 刀 無銘 伝義弘(名物 村雲江)
刀 無銘 伝江(鍋島江)
脇差 金象嵌銘 コテ切義弘本阿(花押)銀象嵌銘 稲葉丹後守所持之 名物篭手切江
刀 無銘 江義弘 名物 五月雨江
刀 金象嵌銘 本多美濃守所持 義弘本阿(花押)名物 桑名江
重文 刀 朱銘 義弘/本阿(花押)名物松井江
重文 刀 無銘 江義弘 (名物 豊前江)出典:正宗とその一門
重美 刀 無銘(名物 横須賀江)
刀 大磨上無銘 江義弘 名物 大江
名物 北野江
名物 中川江
名物 長谷川江
名物 三好江
名物 西方江
名物 甲斐国江
名物 蜂屋江
名物 上野江
名物 桝屋江
松倉江
天下三作とは
天下三作とは、相州正宗、粟田口吉光、郷義弘の三工の作で、かつては名物三作と呼ばれていましたが、いつの頃から天下三作と呼ばれるようになりました。名物三作という呼称は、豊臣秀吉が特に愛した三工の作という説もありますが、今日では享保名物帳に由来すると考えられています。理由としては、三作を特別扱いした書籍が享保名物帳以前に見られないためです。
越中郷義弘(江義弘)の展示
越中郷義弘(江義弘)の作品は全国の刀剣展示会で不定期で展示されます。機会があれば是非ご覧になって下さい。
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稲葉江(出典:日本刀随感)
篭手切江押形(出典:図説刀剣名物帳)
五月雨江、桑名江、松井江(出典:正宗-日本刀の天才とその系譜図録)
芦葉江画像(出典:twitter ひよこ饅頭@旅)
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