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甲冑ブログ

南北朝・室町時代の腹巻

南北朝、室町時代の腹巻

腹巻が軍陣の装具として古くから用いられていたことはすでにのべたように、平治物語や愚管抄・吾妻鏡・明月記などの諸書に記されており、また伴大納言絵詞や平治物語絵巻などにもその着装姿が画かれているが、その遺例は南北朝をさかのぼるものは全く残存していないのである。現在、重文と重美になっている腹巻は六十領あるが、それらを概観すると南北朝時代のものはきわめて少なく、室町時代のものが多数である。すなわち、室町時代に入ってから胴丸と同様に兜、大袖を着けて盛行したことが知られる。重文・重美になっている六十領のうち、大山祇神社に十六領と金剛寺に二十領がある。金剛寺は楠氏との関係が深く、その腹巻はすべて楠氏一族の遺品と伝えている。胴丸腹巻は、兵馬控偬の間において簡易軽便で実用性に富むところから盛行したもので、鎧と違って元来装飾性の少ないものである。したがってその意匠や技法は変化に乏しく、また胴丸と形態上の相違はあっても、意匠や技法の面においては全く同様な様相を呈しているのである。つぎに当期における腹巻の主な遺例を列記して解説することとする。

重文 黒韋威腹巻 大袖付 高津義之氏
重文 黒韋威肩白腹巻 大袖付 前田青郎氏
重文 薫韋包腹巻 伝恩地左近所用 東京国立博物館
重文 薫韋包腹巻 金剛寺
重文 藍韋包腹巻 金剛寺
重文 薫韋威腹巻 大山祇神社
藍韋威肩白紅腹巻 背板付 藤原宗十郎氏
藍韋威肩白紅腹巻
重文 色々威腹巻 阿古陀形総覆輪筋兜、大袖喉輪付 大山祇神社
重文 色々威腹巻 阿古陀形総覆輪筋兜、大袖付 佐太神社
重文 色々威腹巻 阿古陀形総覆輪筋兜、大袖付 毛利元道氏
片身替色々威腹巻 広袖付 石上神社
重文 藍韋威胸白板五枚胴腹巻 籠手付 大山祇神社

黒韋威腹巻

この腹巻は衝胴四段は伊予札で仕立て、菱縫は朱描菱とし、八双金物は入八双座に八重菊鋲一個ずつを打ってある。伊予札以外の小札は撓を入れた平札である。以上のような点は、南北朝時代の特色といってよい。胸板の両側の山形の形状も大山祇神社のそれに近いところがある。

藍韋威肩白腹巻

これも全く同形同様な趣緻のもので、おそらく産地作期を同じくするものと思われる。

薫韋包腹巻(東京国立博物館)

これは衝胴三段、草摺五間五段下りで、三段目まで伊予札を用い、裾二段は本小札とし、総体薫韋包にして浅葱木綿絲で菱綴をほどこす。金具廻、綿噛とも馬革留塗、同革で胴裏を包む。楠木正成の家臣恩地左近の所用と伝えている。綿噛や胸板に刀痕がある。

薫韋包腹巻(金剛寺)

これは鉄三頭切付札で立挙二段・衝胴三段・草摺五間四段下りとし、薫韋で総包にして白韋で各段菱綴をほどこす。金具廻、革所は牡丹獅子文絵韋で包み、紅五星韋の小縁をつけ色絲で伏組をほどこす。綿噛は馬革留塗包としてある。

藍韋包腹巻(金剛寺)

生漆塗の平札で、草摺二段目まで鉄札以下革札を藍韋で包み、裏は馬革留塗包とし、立挙二段・衝胴四段・葉摺五間五段に仕立てる。金具廻は牡丹獅子文絵韋包とし、綿噛は糸引目韋で包み、八双金物は入八双魚子地菊枝毛彫座菊笠鋲を打つ。以上の韋包腹巻の前の二領には袖付の紐の綰がなく、双籠手をつけたか、あるいは衣の下に着込めたものであろう。

薫韋威腹巻(大山祇神社)

衝胴を三段とし、草摺の一段目まで伊予札を配しており、草摺は五間五段を下げている。金具廻の小縁に菖蒲韋を用いているが、この腹巻にはそぐわないように思われる。補修の際の誤りかもしれない。八双金物の様相からみても室町前期を降るものではない。

黒韋威肩紅白腹巻

これは、室町時代の典型的腹巻で、背面の間隙を覆う背板がついている。通常背板は草摺下まで垂れるが、これは小札板二段をつけてあるに過ぎない。つぎの藍韋威肩白紅腹巻は、金具廻を研出鮫皮包とした室町中期のものである。

色々威腹巻 大袖付(大山祇神社)

肩は白・紅・白絲で以下を藍韋で威した室町中期の典型的腹巻。胸板の中央の八双金物に鍍金入八双菊唐草透彫座に、勝の字を左右の笠鋲に分けて打ってあるのが注目される。

色々威腹巻 大袖・喉輪付(大山祇神社)

腹巻に兜・大袖を具足して将士がこれを戦陣に用いた。盛期は室町中期頃と推定される。この腹巻は、黒漆塗阿古陀形総覆輪三十間筋兜と大袖を完備し、堅実な作域の中期頃の腹巻である。なお八双金物や文金物の形式化した八重菊は、奈良菊とも称し、奈良甲冑師の多量製作になるものといわれている。腹巻の兜も筋兜を普通とするが、後勝山形からこの兜の如く阿古陀形となり、しころは饅頭形からこのように笠形に開き、吹返しも急角度に折返してあるのは中期以降の著しい特色といってよかろう。色々威腹巻(佐太神社)や色々威腹巻(毛利家)を附属の阿古陀形総伏輪筋兜などはその好例である。

片身替色々威腹巻(石上神社)

これは、折冠六段下りの広袖を附属する腹巻で、草摺が十間に分かれ、小札は細く、いわゆるその歯小札に近くなっている。甲冑の末期的様相といってよい。すでに当世具足の時代が迫っているのである。

色々威板札五枚胴腹巻(大山祇神社)

これなどはその先駆ともみられるのである。胴は鉄板札を縄目威にして五枚胴蝶番付とし、草摺九間五段は本小札を威し下げ、板札縄目威しの小袖を仕付けた間鎖繋三枚筒籠手を具足している。腹巻の制にいわゆる当世具足の新工夫を加えた過渡期の遺品である。

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